大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所久留米支部 昭和62年(む)9号 決定

主文

原裁判をいずれも取り消す。

昭和六二年一月二七日福岡地方検察庁久留米支部検察官城間祝がした被疑者A、Bに対する各勾留並びに接見禁止の裁判の請求は、いずれもこれを却下する。

理由

一  本件準抗告申立ての趣旨及び理由は、申立人ら作成の準抗告の申立書記載のとおりであるから、これを引用する。

二  そこで検討するに、一件記録並びに当裁判所の事実調べの結果によれば、以下の事実が認められる。

1  被疑者A関係

(一)  右被疑者は、同人の妻から久留米警察署より同署に出頭するようにとの電話があった旨伝えられたので、昭和六二年一月二五日午後二時前、同署に出頭した。

(二)  同署取調室において、直ちに右被疑者に対する本件被疑事実についての取調べが開始されたが、右取調べは右被疑者に対する逮捕状が執行された翌二六日午前五時ころまで断続的に続けられ、右被疑者の供述調書一通が作成された。この間、取調室には担当の警察官一ないし二名が常時在室して右被疑者の動静を看視しており、また、右被疑者が何度も帰してくれるよう求めても、右の警察官は黙殺してこれに応じなかった。

(三)  他方、同警察署司法警察員は、同日午前三時一〇分、久留米簡易裁判所裁判官に対し、右被疑者に対する通常逮捕状の請求をなし、その発付を得て、同日午前五時四二分これを執行した。そして、翌二七日午前九時四五分、右事件は福岡地方検察庁久留米支部検察官に送致され、同支部検察官は同日午後一時五分、久留米簡易裁判所裁判官に対し、勾留並びに接見禁止の裁判の請求をなしたところ、同日同裁判所裁判官は右被疑者に対する勾留並びに接見禁止の裁判をした。

2  被疑者B関係

(一)  右被疑者は、昭和六二年一月二五日午後五時ころ、久留米警察署から出頭するようにとの電話連絡を受けて同署に出頭し、同署取調室で本件被疑事実について簡単な取調べを受けたが、当日処理すべき仕事があったことから一たん同署を退出し、仕事を片付けた後、同日午後七時ころ再び同署に出頭した。

(二)  同署取調室において、直ちに右被疑者に対する取調べが再開されたが、右取調べは翌二六日午前二時ないし三時ころまで続き、右被疑者の供述調書一通が作成された。この間、取調室には担当の警察官二ないし三名が常時在室しており、右取調べ終了後逮捕状執行までの間も一名の警察官が在室し、右被疑者の動静を看視していた。

(三)  他方、同署司法警察員は、同日午前三時一〇分、久留米簡易裁判所裁判官に対し、右被疑者に対する通常逮捕状の請求をなし、その発付を得て、同日午前五時四〇分これを執行した。そして、翌二七日午前九時四五分、右事件は福岡地方検察庁久留米支部検察官に送致され、同検察官は同日午後一時五分久留米簡易裁判所裁判官に対し、勾留並びに接見禁止の裁判の請求をなしたところ、同日同裁判所裁判官は右被疑者に対する勾留並びに接見禁止の裁判をした。

三  右の事実によれば、被疑者A及び同Bはいずれも任意で久留米警察署に出頭したものであるが、被疑者Aにおいては昭和六二年一月二五日午後二時ころから翌二六日午前五時ころまでの間、被疑者Bにおいても再度出頭した同月二五日午後七時ころから翌二六日午前二時ないし三時ころまでの間、いずれも同警察署の取調室において一ないし三名の警察官が常時在室して被疑者らの動静を看視する状態で睡眠時間も与えられず、取調べを受けたものであって、この間担当の警察官において右被疑者らに対して任意の退室あるいは帰宅ないしは外部との連絡を許容するとの態度を示した形跡は認められない。

これらの事情に徴すると、任意の取調べであることを首肯せしめるに足りる特段の事情もうかがわれない本件においては、右被疑者らに対する事実上の看視のついた極めて長時間かつ深夜から払暁に及ぶ本件各取調べは、実質的には逮捕状によらない違法な逮捕であると評さざるを得ないというべきである。(なお、右被疑者らについて、緊急逮捕の要件が具備されていないことは一件記録上明白である。)

もっとも、本件においては、右被疑者らを実質的に逮捕したと評すべき時点から起算しても刑事訴訟法所定の勾留請求までの制限時間不遵守の違法は生じないが、本件のような極めて長時間に及ぶ逮捕状によらない逮捕という令状主義の根本に背馳する違法は、それ自体重大な違法というべきであって、制限時間を遵守したとの一事をもってその瑕疵が治癒されるべきものとも考えられない。

四  以上の次第であって、右被疑者らに対する本件各逮捕はいずれも違法であってその程度も重大であるから、これに基づく勾留請求も却下を免れず、したがってまた接見禁止の裁判もこれをなすべきではないから、申立人ら主張のその余の点について判断するまでもなく原裁判はいずれも取消しを免れないというべきであり、本件準抗告の申立ては理由がある。

よって、刑事訴訟法四三二条、四二六条二項により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 矢野清美 裁判官 有満俊昭 志田洋)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例